日産自動車は7月16日、高級スポーツセダン「スカイライン」を大幅改良して今年9月に発売すると発表しました。
スカイラインと言えば、ハコスカ→ケンメリ→R32GTRと華麗な進歩を遂げてきた日本が誇るスポーツ車です。
今回の改良ではニーズの変化を反映し、高速道路の同一車線内での手放し運転や車線変更時の運転支援などが可能になる先進運転支援技術「プロパイロット2.0」が採用されています。
また、現行モデルに採用されていた「インフィニテイ」エンブレムの変更もひそかな話題になっています。
スカイラインは1957年に初代が発売され、現行モデルは2014年に販売が開始された13代目になります。
日産車では最も長く同じ名称での販売が続けられている車種で、まさに日産の歴史を物語っています。
特にR32は強烈なインパクトを当時の若者に与え、その伝説は今も語り継がれています。
通常、低年式・過走行の車種の価格が低迷する中、例外的に業者オークションにおいてもR32の取引価格は高値安定しています。
主な理由は
- 海外での人気。特にアメリカでは大変な人気であると同時に、輸入規制により初度登録から25年経過した車両が輸入可という理由もあります。
- ノーマル仕様でも優れたスペック
- 近代型スカイラインGT-RにはR32GT-R(BNR32)以降、BNR33、BNR34と3種類のモデルがありますが、どれもスペック的には優れたものを持っています。
- 比較的容易にパワーアップ可能。ノーマルでも当時のモデルとしては高めの0.78kgf/cm2となっていますが、それをEVCなどのブーストコントローラーなどを使って1.0kgf/cm2ぐらいかけてあげるだけで、280psから350ps程度までパワーアップさせることができ、更に吸気系や排気系、ECUなどもいじって1.2kgf/cm2かけてあげるだけで400ps近いパワーを出すことができます。BNR32にされているエンジンは今でも「名機」といわれているRB26DETTです。
- チューニング・ドレスアップパーツの豊富さ。 R32GT-Rが発売された約30年前から同じ日産から発売されていたZ32型フェアレディZと共にチューニング技術やパーツが開発され、現在までにかなりたくさんのチューニングパーツが販売されてきました。
つまり、もともとのスペックが素晴らしいうえに、カスタムできることが大きな魅力でした。
では、今回発表された新型スカイラインに話を戻しましょう。
今回の刷新では、デザインが一新され、先進安全技術や最新のコネクテッド機能などが付きました。
車両本体価格は427万円(消費税込み)から。手放し運転機能があるのはハイブリッドエンジンを搭載したグレードのみで、547万円(同)からです。
先進安全技術に目がいきがちな今回の大幅刷新ですが、日産の日本市場に対する今後の姿勢を占う意味での注目点、それはエンブレムが、日産の海外向け高級車ブランド「インフィニティ」から「NISSAN」に戻った点です。
2014年発売の現行モデルで採用されたインフィニティエンブレムは5年間の短命に終わることになりますが、そもそもの疑問はなぜNISSANエンブレムを採用しなかったのでしょうか?
スカイラインがたどった歴史を振り返ると、1999年にフランスのルノーと資本提携した後の2001年に発売された11代目から、海外市場への展開を重視した高級車路線に舵を切ったという理由があります。
国内では「スカイライン」、海外では「インフィニティ」ブランドの車種として販売され、13代目の車両価格は前モデルから150万円以上も上昇し、高級車としての位置づけが一層鮮明になった経緯があります。
それを機に、新しいスカイラインをプレミアムブランドとして位置づけるためインフィニティのエンブレムがつけられました。
インフィニティブランドは日本国内で展開されていないにもかかわらず、日本の消費者にはほぼ無名のエンブレムを付けて、NISSANブランドのスカイラインとして販売するという「ねじれ」が生じていたわけです。
背景には、日産が経営の軸足を海外市場に移し、日本市場の存在感が低下していたことがあります。
現行スカイラインと時期が重なる日産の中期経営計画「パワー88」(2011~2016年度)では北米や中国、インドやブラジルなど新興国での事業拡大を重視。
ホームマーケットであるはずの日本は成長余地が乏しいとみなされ、国内向けモデルへの投資は抑制される傾向が強まったようです。
今回の改良ではエンブレムのほかにも、フロント部分に日産車のデザインを象徴する「Vモーショングリル」が採用され、リヤ部分にはかつてスカイラインのアイコンだった「丸目4灯コンビネーションランプ」も復活しました。
日産の最先端技術を真っ先に積んできた歴史を持つスカイラインに「プロパイロット2.0」を初搭載したのも、海外の「おさがり」だった直近の位置づけから脱却させようとする意志を感じます。
低迷が長く続く日本市場において、資本提携や外国人経営者の意思により、成長市場への投資を増やしてきた日産ですが、今回の新型スカイラインでは原点回帰の狙いを感じさせます。
安全装備や運転者支援を充実させることは、必須項目ですが、「面白い車」であることを期待したいと思います。