先日、GDPの年率換算が0.2%と発表がありました。

主な要因はコロナ禍でネット通販の躍進です。

GDPの成長は所得の向上を背景に活発な消費行動があってこそですが、家計は苦しいのが実情のようです。

サラダオイルの値上げは記憶に新しいところですが、食用オイルを使用した加工食品全般の価格にも影響が出ています。

物価だけが上がり消費は1部のカテゴリーを除いて低迷しています。

そんな中、東京オリンピック・パラリンピック期間に首都高速料金の値上げが実施されています。

首都高速道路の都心部で行われた通行料金の一律上乗せ(622時:マイカー等1000円)と、深夜の割引(04時:全車種5割引)です。

開催直前に開会式も含め、ほとんどの会場で無観客での開催が決まったのに「なぜ、こうした規制が必要なのか」という意見があった中で、深く検討した形跡もなくこの「ロードプライシング」(料金の変動で通行量をコントロールする施策)は、ある種の社会実験的な意味合いが強い印象を与えました。

五輪閉幕の翌日に警視庁が発表した速報では、『渋滞の距離と時間を掛け合わせた「渋滞長時間」について、新型コロナウイルス流行前の20197月と8月のそれぞれの平日、土曜、日曜祝日の1日平均と、期間中の各日を比較した結果、首都高速では17日間すべてで減少し、減少率は6896%』となっており、かなりの減少でした。

しかし、料金所の閉鎖や車線規制により、首都高速に乗る際に渋滞や混乱を引き起こしたことも、間違いないないようです。

また、当然の結果として、並行する一般道も渋滞を引き起こして起こしました。

今回は、イベントに合わせて高速道路の通行量をコントロールする“料金の変動施策”でしたが、国土交通省は今後、こうしたロードプライシングを渋滞の緩和策として、本格的に導入する方針を打ち出しています。

すでに休日午後の中央自動車高速道上りの小仏トンネル付近や東京湾アクアラインなど、渋滞が恒常化している路線の名前が、導入予定箇所として挙げられています。

ロードプライシングは海外の高速道路でも行われていますが、中心部へのクルマの流入を課金によって制限し、公共交通機関に利用者を誘導する施策が中心です。

もちろん、高速道路の渋滞区間の利用車両の分散化は必要な施策ですが、国土交通省が考えているのは、高速道路渋滞時間における通行料金の値上げであり、その時間に高速道路をどうしても利用しなければならない人にとっては、コスト増につながります。

高速道路の渋滞が緩和されるから値上げという単純な論理でよいのでしょうか?

生活上、その時間帯に高速道路を利用せざるをえない人にとっては、渋滞の緩和というメリットを差し引いても、簡単には受け入れられないのが本音だと思います。

首都高速は現在、激変緩和措置として行っている普通車の上限1320円を、来年4月から1950円に引き上げるなど、料金改定の方針を発表しています。

この金額もまだ暫定措置であり、最終的に激変緩和措置がすべて撤廃されれば、首都高速の最高料金は3000円近くになる可能性があります。

ほかの有料道路との料金の整合性はとれるかもしれませんが、一部の利用者にとっては大幅な値上がりとなります。

こうした中で7月下旬、国土交通省の有識者会議「国土幹線道路部会」が、中間答申案として「高速道路では今後、弾力的な料金施策を行うとともに、2065年までに高速道路を無料にする」という従来の方針を撤回し、「年限を定めない」という案をまとめました。

「いつかは無料」と考えられていた高速道路は「いつまでも有料」かもしれない、と考え方を変えなければならないほどの大きな方向転換であり、まさに役人のやりたい放題が露呈したといえます。

高速道路の料金については、無料の国もあれば有料の国もあります。

永年無料が売り物だったドイツのアウトバーンは、1995年から「道路に負荷がかかるという理由」から大型トラックなどで有料化が実施されました。

環境整備のためというはっきりした目的があり、利用者の納得しやすい理由だといえます。

高速道路は基本的な社会インフラだという視点からは「無料が望ましい」との意見が出るのは当然ですが、日本は国土が狭く、保有台数も20215月末のデータで約8228万台(自動車検査登録情報協会調べ)と多いことから、高速道路を無料にすれば、クルマが殺到し渋滞が増すことは容易に想像されます。

かつて2009年から2年ほど、休日に普通車などを対象に高速道路の通行料金の上限を1000円にするという施策が行われたのを覚えている人もいるとおもいます。

このとき、旅行需要の喚起などそれなりの経済効果はあったものの、全国で渋滞の発生時間がほぼ2倍、東名高速と名神高速では3倍となるなど、激しい渋滞が起きました。

もし無料となれば、こうした渋滞への対策をしておかなければ、さらに激しい高速道路渋滞を引き起こす可能性が高いのも過去の経験から事実です。

また、高速道路の全国への広がりは、都市間高速バス網の充実をもたらし、地方のJR衰退の一因となっています。

コロナ禍で鉄道会社の経営がさらに苦しくなっている中、高速道路の料金が引き下げられたり、はるか先ではあるが無料になったりしたら、鉄道各社の経営はさらに厳しくなります。

ヒトやモノの移動にかかる「経費」は、利用者の便益だけでなく、さまざまな交通機関のバランス、さらにはSDGsの視点を入れ込んだエネルギー効率など、多様な視点で議論する必要があるわけです。

日本の高速路の通行料金のありようについては、生活に直結するだけに、一部の有識者や業界の声だけでなく、広く利用者や関係する当事者の声も聴きながら、議論を続けて欲しいと願います。