過日、オートバックスより1本の入電があり、登録してある車の車検の代行サービスのお知らせでした。
オートバックスと言えば車用品のデパート的な存在で、メンテナンス商品やタイヤ・オーディオとそれらの交換作業が主たるサービスです。
この車検代行業務拡充は同社の戦略に基づくもののようです。
それを証明するものとして2021年春、オートバックスセブンはジョイフル車検・タイヤセンターを買収しています。
同社はホームセンター大手、ジョイフル本田の子会社で、首都圏で6店のカーメンテナンス店を運営しています。
取得金額は未公表ながら、国内で約600店のカー用品店を展開するオートバックスにしてみれば、決して規模の大きな買収ではないと思われます。
しかし、ここ数年、同社は相次いで小規模の整備事業者を買収しています。
2019年には滋賀県で整備工場を1店舗運営する企業を、2020年には三重県で整備工場を4店舗展開する企業をそれぞれ子会社化しました。
企業買収にはいくつかの目的があります。
本業を補完・強化する
複合サービスの影響で周辺客の取り込みをねらう
売上・利益性の改善
社内の人材育成
ノウハウの蓄積
などです。
今回の買収の主目的はカー用品が売り上げの大半を占めるビジネスモデルからの脱却のようです。
国内の新車販売台数は年々落ち込んでおり、直近の2020年の販売台数はピーク時だった1990年の3分の2まで減少しています。
これまで主力商品だったカーナビやドライブレコーダーも、車が販売される時点ですでに搭載されている車種が増えているほか、同じく主力商品のタイヤについても、暖冬になれば冬用タイヤの売り上げが急減します。
2021年3月期の国内オートバックス店舗の売り上げ割合を見ると、約8割をカー用品の販売や取り付けなどの工賃が占めています。
同社にとって主力事業であることは間違いありませんが、今後の成長を模索するうえでは、別の柱が必要です。
そこで目をつけたのが車検事業です。
国内では人口減に伴い、自動車の販売台数は頭打ちになってきています。
そのため、どう繰り返しお客さんに来てもらうかが重要になっていくとの考えのもとに新戦略を打ち出しました。
統計を見ますと、国内における自動車の保有台数は現在8000万台弱で、ここ5年はほぼ横ばいで推移しています。
車検は法律で義務づけられている制度であるため、保有台数が必ず一定期間ごとに需要を生みます。
この分野を伸ばすことができれば、オートバックスとして安定した収益源を確保できるわけです。
すでに同社は1991年から車検事業に参入していますが、安定的な成長に向け、今まで以上に同事業に力を入れる構えのようです。
また原価で考えますと、カー用品の販売と比べると、が小さい車検の粗利率は倍以上になります。
オートバックスが取り込みを狙う購入から3回目以降の新車の車検や中古車の車検はタイヤの摩耗といった部品交換につながりやすく、カー用品の販売とも相乗効果がある点でも魅力的です。
とはいえ、オートバックスはどう車検需要を取り込むのでしょうか。
車検には整備がつきものであり、メンテナンスレベルではない板金修理やエンジン・ミッション・電装系の整備が必要になります。
そこでまず買収戦略による設備・人材・ノウハウの取得にのために企業買収を行っています。
2020年末には約500の自動車整備事業者などが加盟する協同組合、BSサミットと業務提携を結びました。
スーパーオートバックスなど大型店舗がある地域では対応可能な整備でも、小型店だけでは対応が難しい場合もあります。こうした場合に相互送客などでカバーし合うという構図です。
そして、もう1つオートバックスが力を入れるのが、メンテナンスパックの外販です。
メンテナンスパックでは車検や整備を一括で提供するのがウリで、通常は一般客向けに販売します。
そのメンテナンスパックをリース会社や中古車販売店向けに販売を始めています。
オートバックスの各店舗では、2021年10月から高度な電子制御などを持つ車両の整備に必要になる指定工場の認定取得を進めています。
中古車販売業者では整備機能がない会社もあるためメンテナンスパックがあれば販売の後押しになる可能性があります。
約600店を展開するオートバックスであれば、全国どこでも整備に対応可能になるといいます。
このように認知を拡大しながら安定的な車検や整備の需要が確保できれば、安定的な収益源となるうえ、自社の成長や修理業界とのコラボレーションが期待できる。
一見強固な整備ネットワーク構築計画に思われますが、問題は人材の確保にあるようです。
2014年に日本自動車整備振興会連合会が行ったアンケート調査によると、その当時すでに約半数の整備事業場が整備士不足の状況にあると回答しています。
さらに約10%が業務に支障がでるレベルであると答えています。
2020年の整備士の数は2014年と比較して微減の状況が続いていて、依然として整備士不足は業界にとっての深刻な課題となっているのが現状です。
オートバックスが車検事業を成長させるうえでは、待遇の向上などを通じた整備士の確保が大きな課題となりそうです。
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