最近上梓された車の主流は「安全性能」「自動運転」「HV・EV」等にRV要素を加えた車種が多くみられます。
SDG‘sは積極的に取り組むべき課題ですが、車の価値にパワーユニットを求める一定の層は存在します。
そんな中、日産は去る2021年8月18日、ニューヨーク ブルックリンで開催された特別イベントで、新型「Z」(アメリカ市場向けモデル)を世界初公開しました。
2020年9月にプロトタイプが公開されてから約1年の時を経て、遂に市販モデルが披露されました。
トヨタをジェネラリストに例えれば、かつての日産はマニアが好む車を提供するニッチプレーヤーのイメージで、ドライブ本来の楽しみを教えてくれる存在でした。
フェアレディZ(Z30系)と言えば、1970-80年代を代表するあこがれのスポーツカーであり、スーパーカーブームの牽引役にもなった車です。
初めて外装色に「マルーン」という色があることを教えてくれた車でもあります。
今回、発表となった新型「Z」で注目すべきは、世界中がカーボンニュートラルを目指し、電動化への方針を打ち出す中、新開発のV型6気筒 3.0リッターツインターボエンジンをあえて搭載してきたことです。
このVR30DDTT型エンジンは、最高出力400馬力(405PS)、最大トルク350lb-ft(475Nm)/5600rpmを発生し、6速MTと新開発の9速ATをラインナップしてます。
日産は、2050年までに事業活動を含めたクルマのライフサイクル全体のカーボンニュートラル達成を目標に掲げ、2030年代早期より主要市場である日本、中国、アメリカ、ヨーロッパに投入する新型車をすべて電動車両とすると発表しています。
それにもかかわらず、「大排気量エンジン+マニュアルトランスミッション」という、多くのクルマ好き、スポーツカー好きが求める「Z」のアイデンティティを残したことはマニアにとっては嬉しいニュースです。
それは、「常に挑戦し続けることがフェアレディZのDNAだ」と謳う、日産自身のZのへの強い思い入れが感じられる部分でもあり、久しぶりに尖った日産を見ることができるユニットといえます。
新型Zのデザインテーマは「伝統と最新技術の融合」。約1年前に公開されたプロトタイプから大きなデザイン変更はなく、歴代のZへのオマージュを感じさせるものとなっています。
ロングノーズに小さなキャビン(車室)、なだらかに下降していくハッチバックのシルエットは初代モデル(S30型)を彷彿させます。
流れるようなルーフラインや、フロントフェンダーよりもわずかに低くされたテール部分が、伝統的なFR(後輪駆動)スポーツカーが持つ独特なサイドシルエットを強調しています。
LEDヘッドライトの形状は、往年の「240ZG」(S30型)を思わせる2つの半円がイメージされていながら、現代的なシャープさも併せ持ち各所に伝統の“Zらしさ”をちりばめつつ、新型車としての先進性も盛りだくさんです。
その方向性はリアにも色濃く反映されており、リアコンビネーションランプは1989年に登場した4代目(Z32型)を連想させつつ新たに3DシグネチャーLEDテールランプが組み合わせられました。
Sport、Performanceと2つあるグレードのうち、Performanceには、リアの浮き上がりを抑えるリアスポイラーを採用。フロントスポイラーには、「GT-R」の開発で培ったノウハウが活かされているそうです。
ボディサイズは、全長4379mm×全幅1844mm×全高1316mm。現行モデルが全長4260~4330mm×全幅1845~1870 mm×全高1315mmだから、全長が少し長くなった印象です。
ボディカラーは、モノトーン3色と、新色のセイランブルーとイカズチイエローを含む2トーン6色(いずれもスーパーブラックルーフ)を設定。
エクステリアに限らず、インテリアも、どこか懐かしさを感じるスポーツカーらしい仕立になっています。
レーシングドライバーの意見を反映したセンターコンソールは3つのエリアに分けられており、インストルメントパネル上の3連メーター(ブースト計、ターボスピード計、電圧計)は、ドライバーから見やすい位置に配置されています。
たとえば、新設計のシフトレバーは、MT/ATともに握りやすさと快適性が追求され、深めのスポークを採用したステアリングホイールは、伝統的な美しさを損なうことなく、ドライバーが素早く操作できるようデザインに仕上げられています。
コンソール中段にはApple CarPlayやAndroid Autoにも対応する8インチ、または9インチのタッチスクリーンディスプレイが配置され、NissanConnectやWi-Fi ホットスポットなども使用可能となっています。
事業構造改革として2020年11月に打ち出した「NISSAN NEXT」で、「18カ月の間に12の新型車を投入すること」や、「2023年度までに年間100万台以上の電動化技術搭載車を販売すること」「日本では電気自動車2車種とe-POWER搭載車両4車種を追加し、当社の販売の電動化率を60%以上とする」などの目標を掲げる日産。
しかし、新型Zにはハイブリッドシステムとはじめとした電動化技術は一切、投入されていません。
これは、世界の流れに逆らってでも日産スピリットにこだわり抜いた結果といえます。
世界各国がカーボンニュートラル社会を目指し、ガソリン車の新車販売禁止の方針を次々と決定していく流れの中、ギリギリともいえるタイミングで発表された新型Zは、多くのZファンやスポーツカーファンにとって、ビッグニュースです。
電動化のみならず、自動運転や無人運転の実用化が進む中、こうした自動車メーカーのこだわりこそが、ファンの心をつかみ、若者の車離れを食い止め、メーカーが存続していくためのカギとなる事と期待します。
価格は未発表ではあるものの、「手の届く夢のスポーツカー」であるとすれば、現行モデルの約400万~650万円から大幅な価格アップはないと予想されています。
2021年は同じFRスポーツカーであるトヨタ「86」、スバル「BRZ」のフルモデルチェンジも発表されましたが、こちらも電動化は行われていません。
この2台とともに、新型Zの存在がこれからの日産に、そして電動化一辺倒の自動車市場にどのような影響を与えるのか、大きな興味をもって見守りたいところです。
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