カーボンニュートラルへの取り組みとして、ハイブリット車・電気自動車・水素エンジン搭載車など様々な開発が進んでいます。
一方、ガソリン車の市場ではパワーユニットも一定の市場はあるものの近年の車は総じてエンジンの小型化が進んでいます。
燃焼効率を上げた小型エンジンとロスの少ない変速機の組み合わせにより、パワー・快適性と環境への配慮を両立させる取り組みです。
そんな中、最近気になるのが直列3気筒エンジンを搭載した普通車の存在です。
1気筒の排気量上限は500ccまでが適当との考え方が浸透し、1500cc(1.5L)以下のエンジンでは、直列3気筒のほうが損失は少なく、全体の寸法も小さく収まり、車体への搭載性もよいなどにより、直列3気筒の採用例が増えてきたようです。
代表的な例としては軽自動車用で、現在の軽自動車規格の総排気量は660ccまでとなっており、以前は直列4気筒エンジンが存在しましたが、今では姿を消しています。
シリンダーの中で動くピストンの摩擦はもちろん、その上下動を回転に替えるコンロッドやクランクシャフト、あるいは吸排気のバルブ駆動など、たとえオイルで潤滑していたとしても摩擦損失は生じており、あらゆる金属同士の接触部分が1気筒ぶん減ることで、燃費が改善されるとともに、部品点数が減ることで原価も下がると言うわけです。
もちろん、軽自動車であれば車体寸法にも制約があり、そのなかで客室や荷室をできるだけ大きくしようと思えばエンジンルームは小さくなり、収めるには小さな寸法のエンジンであることが重要な要素です。
またエンジンが小さくなれば軽くなり、燃費が向上します。
小型車でも同じことが言えます。
燃費を改善でき、また昨今はハイブリッド化などでモーターや制御部品が追加される事例もあり、エンジンは小さいに限るといわれています。
そこで今回は、3気筒エンジンが積極的に活用されている背景や理由、振動を抑える為のテクノロジーなどをお伝えしたいと思います。
直列3気筒エンジンは、3つの気筒それぞれが順番に等間隔で燃焼した場合、燃焼後の排気が排気管へ排出される際に、3つの排気管を1本にまとめる集合部分(マニホールド)で排気同士がぶつかり合わないので、次の吸気工程で燃焼室に十分な空気を導入でき、高出力化しやすいという利点もあります。
例としてはBMWの「MINI」が2013年からの3代目で、1.2~1.5Lエンジン車に直列3気筒を展開し、ほかにもプラグインハイブリッド(PHEV)のスポーツカーである「i8」のエンジンに1.5Lの直列3気筒を採用しています。
もっとも新しい例では、8代目となる「新型ゴルフ」の排気量999cc(1.0Lと表現される)のガソリン直噴ターボエンジンが直列3気筒となりました。また、フォルクスワーゲングループのアウディも「新型A3」の1.0Lエンジンに、ゴルフと同じ直列3気筒エンジンを使っています。
そのほか、ボルボも「XC40」のPHEVに1.5Lの直列3気筒ガソリンエンジンを搭載しています。
国内では、トヨタの「ヤリス」が直列3気筒ガソリンエンジンとし、スポーツモデルの「GRヤリス」やSUVの「ヤリスクロス」にも採用しています。「新型アクア」もハイブリッド専用エンジンにヤリスと同じ直列3気筒を使っています。
エンジンの合理性から直列3気筒エンジンは、燃費や出力に優れた性能を発揮するとされていますが一方では直列3気筒ならではの独特な振動があり、これが快適性を損なうといわれています。
そのため、3気筒よりも4気筒が採用されてきたという背景があるわけです。
直列4気筒のような偶数の気筒数のエンジンは、等間隔での燃焼が行われると、ある気筒が燃焼しているとき、相対する別の気筒も違う工程ではあるものの、同じ位置(上死点)か、その反対側(下死点)にピストンがあり、互いに上下動の動きを打ち消す働きをします。
実際には、混合気を燃やしたときの爆発するような燃焼の勢いと、ほかの工程(圧縮や排気)では、力のかかり具合が異なり、振動は起こりますが、ピストンの往復運動という点においては調和がとれるといえます。
しかし、奇数となる直列3気筒の場合、1つの気筒のピストンが燃焼工程にあるとき、ほかの2つのピストンは往復運動の中間位置にあり、しかも上昇と下降の別の動きをしているので、エンジンを回しながらゆするような振動を起こします。
これが快適さを損う原因です。
自然吸気の軽自動車のエンジンが、プルプルと振動するのを経験した方もいらっしゃると思います。
それが直列3気筒ならではの振動や騒音なのです。
これを補うため、バランスシャフトと呼ばれ、エンジン回転と逆に回転する錘の軸を装備することで解消しようとする手立てがあります。ほかにクランクシャフト後端にあり、回転を安定させるフライホイールに振動を調整する穴を開けるなどして解消しようという方法もあります。
別の例に例えると、タイヤをホイールに組み付けたとき、ウェイトと呼ばれる鉛の小片をホイールの内側に取り付け、回転したときに振動が収まるようにするのと似た発想です。
そのほか、ターボチャージャーによる過給や、モーター駆動を加えることで、エンジンに負荷が大きくかかる運転状況で回転力を補い、余分な振動が出にくいようにすることも効果をあげています。
それぞれの対処法をどう使うかは、自動車メーカーの考え方や、直列3気筒エンジンを採用する車種の特徴などによって違ってくるため、メーカーごとの考え方や技術が反映されているのです。
エンジンをコンパクトにして、運転性能・燃費・出力をどのように保つのか。
日本市場で人気の高いフォルクスワーゲンゴルフとトヨタのヤリスを例にとってご説明します。
直近では日本での販売がはじまったばかりの新型ゴルフ。1.0L 3気筒ターボと、1.5L 4気筒ターボの2種類のラインアップがあります。
なかでも印象深いのが、フォルクスワーゲン・ゴルフに搭載された1.0Lの直列3気筒ガソリン直噴ターボエンジンです。
48Vのマイルドハイブリッド仕様で、モーター機能付き発電機(ISG/インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)がベルト駆動で組み合わされています。
フォルクスワーゲングループジャパンによれば、直列3気筒エンジンの振動と騒音対策に、バランスシャフトは使っていないと言います。
新型ゴルフの3気筒エンジンでは、燃費を向上させるため、ミラーサイクルを実現するバルブ制御が行われています。
通常のバルブ開閉時期に比べ、吸気バルブを圧縮工程になってもしばらく開けたままとすることにより圧縮比が高くなりすぎないようにし、ノッキングなどの異常燃焼を予防しています。
そのあとの膨張工程では、ピストンの移動距離をそのまま活かし、圧縮時と膨張時のピストン移動量が異なることを利用して仕事率を高く(入力に比べ出力を大きく)し、燃費を改善しようという策です。
次に国産車の代表として、トヨタの「ヤリス」があります。
ヤリスの直列3気筒エンジンには、1.0Lと1.5Lの2種類があり、このうち1.0Lはダイハツが開発した登録車のコンパクトカー用です。
たとえば、SUV(スポーツ多目的車)のトヨタ「ライズ」に使われていますが、こちらはターボチャージャーで過給されているのに対し、ヤリスは自然吸気なので出力が低いです。
トヨタは、ガソリンエンジンの高効率化を目指して、ダイナミックフォースエンジンと呼ぶ開発を行い、これがヤリスの1.5L直列3気筒ガソリンエンジンにも適用されています。
ターボチャージャーなど過給を使う欧州のダウンサイジングとは別に、ライトサイジングとの考えから自然吸気を基本としているのです。
ヤリスのガソリンエンジン車にはバランスシャフトが採用され、これで直列3気筒エンジン特有の振動や騒音を抑える対策としています。しかし、それでも全体的には直列3気筒エンジン的な振動や騒音は残り、快適性という側面において、過給機やモーター駆動を併用する他社とは異なる印象があります。
また、トヨタは近年アイドリングストップをやめており、停車してもエンジンが回り続けることにより、振動や騒音に意識を向かせてしまうことも影響しているかもしれません。
ダイナミックフォースエンジンは、燃費と動力性能を両立したエンジン本来の醍醐味を主目的としているためか、快適性ではやや劣る印象があります。
また、新開発のバイポーラ型ニッケル水素バッテリーを使う「新型アクア」は、直列3気筒エンジンの振動や騒音をほとんど感じさせません。
バッテリー出力を約2倍とした新バッテリーの採用により、モーター走行領域が増えたことで、あまりエンジンに頼らない走り方が快適性の向上に役立ち、ヤリスHVとは違ったアクアの存在意義を高めているといえます。
直列3気筒エンジンといっても、これほど多彩な特性を持っています。
燃費向上・運転性能・操作性・居住性など車に求める条件は多いですし、個々の要望全てに応える車作りには大変な苦労があると思います。
ユーザー側が各社のテクノロジーや特性・脆弱性を理解したうえで選択する必要があります。
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